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世間様はクリスマス。街にはクリスマスのイルミネーションが彩りを添え、リズミカルな音楽が街中に鳴り響き、何処から湧いてくるのだろうと疑問を抱いてしまうほどの無数のサンタさん、女性はいつもより少しばかりオシャレになり、男性はいつもより少しばかりキザになる事を許される特別な日。 それがクリスマス。
さてそんなクリスマスとも無縁な男のちょっぴり悲しい物語を今日は紹介しよう。 時は12月23日。3連休のちょうどど真ん中にして、クリスマスイブの前夜。その男はお台場へと進出する。 街には手を取り合うカップルや家族達。それはもう幸せの笑みでいっぱいである。 その男は何故にお台場へと足を運んだのか? それは千と千尋の神隠しグッズをゲットするためである。 話は一週間ほど前にさかのぼる。 男はある方から「お台場の小香港という所にそこでしか手に入らない千尋グッズがある」という情報を入手。 その男は大のジブリ好きで、ジブリのためならたとえ火の中水の中を地でいってしまうような男だ。 無論その情報を聞いた彼は例外に漏れることなく12月23日にその場へと向かうこととなる。 お台場付近に着くとそこはもうちょっとしたパニック状態。渋滞はもちろんのこと、お前らは何をしにココへ来て居るんだ?と言いたくなるほどの人の山。一緒にいった友人の言葉を借りるのであればまさしく「佃煮に出来そうなくらい」の人の数である。 団塊の世代が生んだ愛の結晶(So Let's Get Trues参照)はこれほどまでに膨れ上がったかと実感できるほどであった。
さて、そんなことにも目にくれず、多少迷いそうになりながらも無事「台場小香港」なる場所へたどり着く。 その男には香港というところがどういう場所なのかはさっぱりワカランが、それなりに香港の雰囲気を感じながら練り歩く。 しばらく歩いていると刑務所の取調室のような所に3台程のゲーム機がおいてあり、そこには千と千尋の神隠しグッズがあった。そこにあるグッズは普通に流通しているものであったが「これだ!」と確信した男はゲーム機に迷うことなく100円玉をそそぎ込みゲームを開始した。 そのゲームは、まずコインを入れ、欲しい商品を選ぶ(この場合いうまでもなく千尋グッズ)スタートと同時にルーレットが回りだし、ストップボタンを押し、ルーレットが止まった所の数だけ商品の乗っている台の傾斜が傾いていくという図式である。そして、5段階傾斜を傾けるとめでたく商品ゲットというわけだ。 要するにルーレットには−4〜5までの数字が書いてあり、5が出ればその瞬間商品ゲット。その他の数字の場合は2が出れば2段階傾斜が傾き、−3が出れば3つ分傾斜が元に戻ってしまうというわけである。 意気揚々とはじめたゲーム。最初はかなり気合いを入れてボタンをプッシュしていた。そのうち1000円2000円3000円と金を使うにつれ、そのゲームに対する思いは次第に薄くなり、ゲーム性というものは姿を消していった。 もはや連打である。そこには現代日本を象徴するかのような完全分業制ができあがっていた。 友人はボタンを連打するだけ。ゲームオーバーになる頃を見計らって男が100円玉をインサートする。まるで息の合った夫婦の餅つきの様な絵柄。そうして使った額は5000円。
成果はというと「無」である。 阿呆ですね。それも極上の、生粋の。
「悔しい」とか「怒り」とかそんな感情は通り過ぎていきました。 そこに残るのはただ虚しさだけです。
男とその友人は平然を装いながらも隠しきれない虚無感を漂わせながらゲーム機を後にした。 その時に男の頭の奥のそのまた奥でマッチ(近藤正彦)が声高らかに歌っていましたよ。
「お〜ろ〜か〜も〜のぉよ〜」って。(マッチ全盛期を知らないお子さまはお母さんに聞いて下さい。)
このぼやきの冒頭の部分で街ゆく人に向けて「お前らは何をしにココへ来て居るんだ?」という疑問を抱いたと書きましたが、まさしく彼は自分自身にそれを問い正したい衝動に駆られました。 普通に市販されているもの(因みにそこにあった商品はパズルにトランプに小さなぬいぐるみ2個。合計にして恐らく4000円相当のものでしょうか)に大金をつぎ込んでしまった自己嫌悪。パチンコや麻雀など一切やらない男はいつもギャンブル好きの友人に「無駄」だとさとしていたのが、まさか自分の身に降りかかるとは思いもしなかった。
更に追い打ちをかけたのが、後日情報提供してくれた方に確認したところ「オリジナルグッズがおいてあるのはそこではなく他の場所」だということが判明。 まさしく「無駄」だったのである。徳川埋蔵金を巨額の制作費と人件費をかけて結局何も見つからなかったというテレビ番組よりも無駄なような気がしてきて、男は鈍器で後頭部を強打されたような感覚に陥る。 男は「後悔先に立たず」ということわざが嫌いである。何故なら後悔という字は「後」に「悔やむ」と書くので先に立つわけがないだろこのバカチンがと思っていたからだ。 しかしこの時ばかりはその言葉が頭の中を駆けめぐる。「何故1000円位の損失でやめておかなかった。」とか「何故帰る前に店内全体を散策しなかったんだ」とか、今更どうにもならないことを女々しくも考えていた。
しかしココまで来たら決して負けたままで終わらせるわけにはいかない。 まだ見ぬ宝を前にして退くわけにはいかないのだ。情報提供者にも「5000円あればおいしい物が食べれらるのに」と考えてみればごもっともなことを言われたが、着眼点はそこではない。これは戦である。男とゲーム機との間に勃発した男と男の闘いなのだ。 たとえ後ろ指を指されようとも、あいつはバカだと言われようとも、男には決して譲ることの出来ない「誇り」というものがある。
その誇りを失わないためにもいつの日かリベンジを果たしてやろうと固く決意した男であった。
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